『Light』シリーズより/Waimanalo Beach Looking Towards Lanikai(2007)
© Noreen Naughton
空や海をはじめ、ハワイの美しい自然をモチーフに作品をつくりだすアーティストは数多くいます。
今回ご紹介する画家のNoreen Naughton(ノリーン・ノートン)も、素晴らしいハワイの自然の風景を長年描き続けているアーティストのひとりです。
ノリ―ン・ノートン photo by Ken Wilson
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■Noreen Naughton(ノリ―ン・ノートン)
米ニューヨーク州・シェネクタディ出身の抽象画家。ハワイ大学・マノア校をはじめ、国内外でアートを学ぶ。ハワイ大学「カピオラニ・コミュニティカレッジ」では教授として絵画の教鞭もとった。
現在はハワイ州オアフ島のカネオヘにあるスタジオを拠点にアーティストとして活動しており、その作品は地元のハワイ州芸術文化財団やホノルル美術館を含め、国際的に広くコレクションされている。
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ノリ―ンの作品は、趣が異なる『Light(光)』、『Trees(樹々)』、『Landscapes(風景)』、『Windows(窓)』という4つのシリーズからなっています。
今回は各シリーズから幾つかの作品を事前に選び、それぞれの作品に感じたことをそのまま尋ねる形でインタビューを行いました。
記事を読んでいただくと、ひとりの画家が、ハワイという土地でどのようにして一枚の魅力的な作品を生み出していくのか、そのプロセスがよくわかっていただけると思います。
《シリーズ1、Light》
『Light』シリーズより/Yellow Glow - Sunrise (2006) © Noreen Naughton
◆作者によるシリーズ解説◆
『Light』シリーズは、わたしが制作スタジオの窓ごしに眺めた、あるいは実際の風景の中で見た「地平線と空」を抽象化して描いた作品です。異なる色あいの下塗りや色の組み合わせによって“光の輝き”を探求し、“霊的な感覚”を生み出そうとしました。
アロハ・セイルズ・ハワイ(以下、アロハ):
『Light』シリーズの作品はどれも、ひと目見て魅了されたよ。これはあなたが「解説」に書いていたことだけど、このシリーズで「“霊的な感覚”を生み出そうとした」のはなぜなの?
ノリーン・ノートン(以下・ノリ―ン):
これはわたしの信念なんだけれど、最も古びることがなく重要なアートとは、霊的に深みのある質と感覚を表現した作品だと考えているの。
数世紀に渡ってアートというものについて考えてみると、社会の中で生き続けることができるアートは霊的な性質を持っていると思う。「霊性」というものは、過去、現在、そして未来へと(永遠に)続いていくものなのよ。
そんな霊性の表現とは非言語的であり、「ことば」を超越するわ。そして絵画の視覚的な要素は、そういった霊的なものを表現することができるものなの。
霊性を備えたアートとは、実物の作品の範疇を超えてその先へと行くもので、これはわたしが作品制作で目指している究極の目標なのよ。
アロハ:
その目標を達成するために、上の『Waimanalo Beach Looking Towards Lanikai』という作品と『Yellow Glow - Sunrise』という作品ではそれぞれどんな工夫をしたか、話してもらえる?
ノリーン:
ある特定の色の組み合わせは明るさや光を生み出すの。
たとえば1枚目の『Waimanalo Beach Looking Towards Lanikai』だけど、画面のほとんどがとても明るい「ハイキー」で、水平線の部分ではブルーとブルーグリーンがきらめているように描いたの。
2枚目の『Yellow Glow - Sunrise』でも、輝くようなイエローとレッド、ブルーが明るい光をつくり出すように表現しているわ。
専門的なことを言うと、複数の色が等価で隣り合わせに配置されると非物質的な光が生み出されるのね。これは、アメリカの著名な抽象画家であるマーク・ロスコやヨゼフ・アルバースも理解していたことよ。
また中国の道教の元になった「老荘(ろうそう)思想」でも、陰と陽という互いに対立しあうふたつのものが揃うとより強力なエネルギーが生まれると考えられていて、わたしはそのエネルギーを光と同じものだと考えているの。
そしてこれと同じ現象は、色だけでなく、線や形の対比においても起きるの。その結果生みされる緊張と強いエネルギーは光に等しいものなのよ。
《シリーズ2、Trees》
『Trees』シリーズより/Study - Intertwined Trees (2005) © Noreen Naughton
◆作者によるシリーズ解説◆
『Trees』シリーズの作品の多くは、オアフ島の東側、ウィンドワード(風上)にある「ホオマルヒア植物園」で描いたものです。
この植物園には、魅力的で互いに絡み合ったハウ・ククイ・ハラといったハワイらしい樹々が生えています。
わたしはこれらの樹木を、ねじれ合った線、明るい光、空っぽの空間、かぎ状の形といった「面白みのある抽象物」、「他のイメージや美的感覚を想起させるもの」だと捉えています。
アロハ:
『Trees』シリーズを描く場所にホオマルヒア植物園を選んだのはなぜ?
ノリーン:
わたしが住んでいる場所に近く、とても訪れやすかったからよ。ここは非常に安全な公園で、ひとりでも安心して絵を描ける場所なの。
アロハ:
実はこれまでホオマルヒア植物園には行ったことがないんだけれど、インスタグラムなどでは、こんな写真(以下)をよく目にするんだ。
『Trees』シリーズを見て最初に驚いたのは、僕が想像していた「ホオマルヒア植物園」とあなたが描いた作品のギャップだったんだ。
上の写真に写っているような雄大な山々も青空もあなたの絵には描かれていなかったからね。
それだけじゃなく、あなたはこのシリーズで赤土の上に無秩序に生い茂る樹々や、伐採後の(まるで枯れかけているかのようにも見える)茶色い樹木も描いているよね。それらがまったく青々としていないことに驚いたし、同時に興味もそそられたんだ。
『Trees』シリーズより/Red Ground (2006) © Noreen Naughton
ノリーン:
それはそうかもね。あなたが見せてくれた写真は、植物園の入口辺りから撮影されたものだけど、わたしはそことは別の場所で作品を描いたの。そして、わたしが特に興味を引かれたのが、(下の写真のような)森のはずれに生えている樹々のアラベスク模様を思わせるかたち‐複雑に入り組んだイメージの迷路だったのよ。
画像提供:ノリ―ン・ノートン
アロハ:
こんなに鬱蒼とした森が園内にあるなんて想像もしなかったよ!冷静に考えれば当然かもしれないけれど、SNSなどで目にするのとは違う、ハワイの自然のまた別の顔を見せてもらったような気がするな。
《シリーズ3、Landscapes》
『Landscapes』シリーズより/Sandy Beach IV (2008) © Noreen Naughton
◆作者によるシリーズ解説◆
筆運びがしっかりわかるように絵の具を塗り重ねることで、野外での絵画制作という体験₋まばゆい光、渦巻く風、予期せぬかたちの形状などを表現しています。また、半透明性とコントラストが、(筆やパレットナイフの跡が見えるような)厚塗りと画面上のリアルな風景の間にかすかな緊張を生じさせています。
『Landscapes』シリーズより/Na Pali - Blue Space (2014) © Noreen Naughton
アロハ:
オアフ島東岸にある有名なサンディービーチを描いた『Sandy Beach IV』も、絶景で知られるカウアイ島のナパリ海岸を描いた『Na Pali - Blue Space』も、『Trees』であなたが描いたホーマルヒア植物園の森同様、一般的に知られているのとは違った、独自の色彩を使って描き出されているのが面白いね。
ノリ―ン:
視覚的に認知される色に合わせようとして、「固有色(太陽光のもとで何かを見た際の色彩)」を使ってモチーフを描くことには興味がないの。
「シンセティック・パレット」と呼ばれるパレットを使って、時には、一般的でない色を組み合わせることによって生まれる“可能性”を追求しているのよ。
わたしは色の表現的な側面に関心があって、その場合、色彩は特定の固有色の視覚的な記録ではなく、まるで「音符」のようなものなの。
わたしがしたいのは「再現」ではなく、「表現」なのよ。
アロハ:
ありがとう。もうひとつ知りたいのが絵の具の種類についてなんだ。
同じ『Landscapes』シリーズの作品ではあるけれど、『Sandy Beach IV』では油絵の具を『Na Pali - Blue Space』ではアクリル絵の具をというふうに絵の具を使い分けているよね。
油絵とアクリル、どちらの絵の具を使うか決める上で基準はあるの?
ノリ―ン:
油絵の具を使うのは、作品を継続的に描く場合ね。油絵の具は(アクリル絵の具と比べて)乾燥にとても時間がかかるから。一枚の油彩画を描くのに数か月、数年かけることもあるのよ。
一方でアクリル絵の具は、速乾性や扱いの手軽さがあるから使っているの。とてもスピーディーに描かなくていけない時や表現の新しいアイデアを模索している時はアクリル絵の具を使うわ。なぜならアクリル絵の具には速乾性があって、一回の制作時間に何度も重ね塗りができるから。というわけで、(本番の作品制作の前に、練習で描く)「習作」用にもアクリル絵の具を使っているわ。
《シリーズ4、Windows》
『Windows』シリーズより/Floral Still Life at Window - I (2011) © Noreen Naughton
◆作者によるシリーズ解説◆
このシリーズの主題は「窓」。窓の前に配置された静物がモチーフです。
(ピカソなどの)キュビズムの画家たちによる空間表現の方法やルールに従って画面は構成されており、(キュビズムならではの)空間の不確定さや曖昧さを作り出そうとしました。
そして、『Light』『Trees』『Lnadscapes』という3シリーズでの経験と表現力が集約され、融合したのが、この『Windows』シリーズです。
アロハ:
このシリーズが他の3つのシリーズでのあなたの経験と表現力を集約し、融合したものであるということについて、詳しく教えてもらえる?
ノリ―ン:
『Window』シリーズでは、文字通り、窓を通して認識される『Light(光)』、『Trees(樹々=植物)』、『Landscapes(風景)』のすべてがモチーフになっているの。
そして、屋外の光が窓から差し込んで、室内の空間と(そこに配置された)物体を抽象化しているわ。
数か月間にわたる制作過程を通じて、描かれたものはより抽象的なイメージに進化していくのよ。光と形、動きの複雑な構造へとまとまっていき、「抽象」に向かっていくの。
『Window』シリーズの作品は、わたしの絵画におけるイメージの集大成と呼べるものよ。
『Windows』シリーズより/Floral Still Life at Window - II (2011) © Noreen Naughton
アロハ:
そう言われてから改めて見ると、モチーフと描き方の両方で『Light』『Trees』『Lnadscapes』それぞれに既に見られた要素がひとつの画面につまっているのがわかるね。
そして、他のどのシリーズとも同じでない、新たな世界が生み出されているよね。
カラフルで鮮やかな色合いも、その“新しさ”の印象をさらに強めていると思うな。
ノリ―ン:
そうね。色に関しては、『Floral Still Life at Window - I』と『Floral Still Life at Window - II』のどちらにも南国植物の「ヘリコニア」を描いたけれど、この植物がパワフルな色合いを選ぶようにとインスピレーションを与えてくれたのよ。
アロハ:
ヘリコニアを含め、あなたが実際に目で見て作品に描き出そうとしたものを表現する上でベストな色彩を選んでいるということだね。
今回は、あなたの解説とともに作品を見直すことができて、とてもワクワクする楽しい時間が過ごせたよ。
このインタビューであなたから多くのことを学んだおかげで、今後自分がアートを見る目が少し変わるかもしれないという予感がしているんだ。
改めて、今日は素晴らしい話を聞かせてくれてどうもありがとう!
ノリ―ン:
こちらこそ、ありがとう。
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一枚の絵画に魅力を感じた時、なぜその絵にひかれるのかを説明したくてもうまくできないことが多いように思います。
ノリ―ンが語った「『再現』でなく、『表現』がしたい」という言葉。
彼女によるハワイの自然のバリエーション豊かな「表現」は、長年の制作経験や研究に基づき、試行錯誤を繰り返すことで、はじめて実現できるものなのです。
そんなノリ―ンですが、現在も引き続き『Windows』シリーズの制作を続けているそうです。また他の4人の画家とともに立ち上げた“Plein Air Project(野外制作プロジェクト)”では、オアフ島・ノースショアの自然保護区で風景画の作品を描いていて、近くグループ展も開催予定とのことでした。
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