ALL I FEEL, IS EVERYTHING NO.1 © 2022 Taylor Binda
今回紹介するテイラー・ビンダ(Taylor Binda)は、良い意味で最も“ハワイらしからぬ”アーティストのひとりかもしれません。
どんな点が「ハワイらしくない」かは作品を見れば感じていただけると思いますし、このインタビューの中でもしっかり聞いていますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
テイラーの言葉は彼女が生み出す「抽象画」とよく似ていて、英語から日本語への翻訳では試行錯誤を繰り返しました。
でも、それを僕なりにかみ砕く中でアーティストである彼女自身や作品への理解が少しずつ深まり、より一層ファンになれたように感じています。
その作業の痕跡があちこちに残っているこの記事を楽しんでいただけたら、とても嬉しいです。
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■Taylor Binda(テイラー・ビンダ)
米マサチューセッツ州・ボストン出身。ハワイ・マウイ島のノースショアに暮らし、抽象画とテキスタイルアートの制作を行う。近年は絵画とテキスタイルの融合を試みており、最新作は、花から抽出した顔料を使ってシルクやリネンの生地に描いた『Invisible Gardens(インビジブル・ガーデン)』。
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ハワイの豊かな森に包まれながらの作品制作
アロハ・セイルズ ハワイ(以下、アロハ):
あなたが制作拠点にしているマウイ島のノースショアってどんな町なの?
テイラー・ビンダ(以下、テイラー):
町自体は眠っているみたいな雰囲気なのに、地域のコミュニティには活気がある、そんな素敵なところよ。
わたしは、森の中にあるマイクロ・グリーン(若芽野菜)とエディブル・フラワー(食用花)の農場に暮らしているんだけど、たくさんの美しい草花たちがすくすく育ち、鳥たちのさえずる歌声がまるでバックグランドミュージックみたいに聞こえてくる、夢のような場所なの。
それで今年(2022~2023年)の冬はとても雨が多かったのね。ジメっとした天候の中、自宅のスタジオに籠っているとインスピレーションがとても湧いたわ。ジャングルに隠れるように暮らし、心地よさを感じていると制作が本当にはかどるのよ。
一方でわたしは旅行も大好きなの。世界中を旅して、これまでとは違った未知の体験をすることと自宅スタジオでの制作の絶妙なバランスの組み合わせは素晴らしいものよ。
SEA & SKY,NO.1 © 2018 Taylor Binda
アロハ:
ノースショア(マウイ島)以外で制作をしてみたいと思うことはある?
テイラー:
そうね。実は最近、制作の拠点をアメリカ本土の東海岸と西海岸の両方に広げてみようかと考えているところ。
アロハ:
なぜ、東海岸と西海岸なの?
テイラー:
わたしはアメリカ東海岸のマサチューセッツ州・ボストンの出身で、そこにあるケープコッド(コッド岬)の海沿いにいると、インスピレーションがとても湧くのね。もうひとつ、西海岸にあるロサンゼルスのベニスビーチは、わたしが幼い多感な時期を過ごした場所。両方とも、いつも自分がそこに引き戻されるように感じる、わたしにとって原点となるような土地なの。
どこに拠点があっても、しばらくはそこに滞在して制作をしてみたいわね。その土地の雰囲気や感じによって、作品にどのような命を吹き込まれるか見るのはとても面白いことなのよ。
MOON + CLOUDS, Á LA MER NO.1 © 2019 Taylor Binda
自然への感動を「抽象画」に託して
アロハ:
あなたは主に「抽象画」を描いているよね。これってハワイのほとんどのアーティストが(対象を写実的に表現する)「具象画」を描いているのとは対照的に感じるんだけど。
テイラー:
本当にそうね。だから、ハワイの抽象画家である自分をちょっぴり部外者みたいに感じることはあるわ。
ただ、それがわたしの“スタイル”なのよね。
わたしは自分が暮らし、旅した場所の自然の世界に特に心を動かされる。そうして日常的に感じたり、目にしたり、体験したりしたことに対して「抽象画」を描くことで反応しているというわけ。
アロハ:
あなたにとってベストな表現のスタイルが「抽象画」ってこと?
テイラー:
そう。いま話した通り、わたしにとって作品は、深い個人的な意味合いがあるものなの。
そして「抽象画」の世界の自由度が、まるで魔法みたいに、心の底から制作を楽しんだり、探求したりすることを可能にしてくれるのね。
絵を描いている時は、自分が何を描くことになるのか全くわからないの。まるで異世界と交信してるみたいな感じ。天国以外の場所にいる天使か何かになったような気分よ。
BOUGAINVILLEA, NO.1 © 2020 Taylor Binda
すべては「色」から始まる
アロハ:
作品の制作はどのように始まり、進んでいくの?
テイラー:
わたしの制作は、実に騒々しい「色」たちとともにスタートするの。色たちがまるでわたしに呼びかけてくるみたいにね。
わたしにとって「色」とは「ムード」を映しだすものだけど、同時に「色」は、ひとによって様々に別のことを語り掛け、多くの違った意味合いを持っているものだとも思う。
多くの色の中で、ピンクはわたしの作品で一貫したテーマになっている付き合いが長い一色だけど、ピンクが意味するものや感じさせるものはあなたとわたしでは違っているよね。
そんな色をキャンバスに塗っていくわけだけど、その塗り方も自分の感情やムード、考え(思考)といったもの全ての表現だと思うわ。
CLOUDS IN MY COFFEE, NO.2 © 2020 Taylor Binda
アロハ:
作品のモチーフはどうやって見つけるの? 現実世界に存在しているものがモチーフになるの?
テイラー:
自然の世界に実在しているさまざなものが混じりあったものがモチーフになるわ。たとえば、花たちの独特な成長の仕方、車でよく通り過ぎるブーゲンビレアの茂み、海が(わたしと同じ抽象画家の)ロスコ的な雰囲気を幾日間かたたえている様子、カエンボクの素晴らしいオレンジや黄色の花が青い空に架かる様子など、それらすべてがインスピレーションを与えてくれる。
わたしはほとんどの時間を観察に使い、その結果を作品に取り入れるの。時にやり過ぎちゃうこともあるくらい。でも、自分の感受性をフルに活用したこの観察があってこそ、わたしは作品の制作ができるわけ。
自分に感動を与えてくれたモチーフを描いた作品が、今度は逆にそれを見る人たちの心も動かしてくれたらいいなと思うわ。
TINY TULIPS, NO.2 © 2023 Taylor Binda
ポジティブなパワーをくれる「花」という存在
アロハ:
あなたの作品には花のモチーフが多く登場するよね。アーティストであるあなたにとって、花にはどんな面白みや魅力があったり、インスピレーションを湧かせてくれるの?
テイラー:
花自体に表現をする力があるとわたしは考えているの。とりわけチューリップとバラにはそのパワーがあるわ。
気持ちが沈んでいる時はいつも、花々に直に触れたり、空間でのたたずまいを目にしたりすると、美や喜びを感じるし、愉快で陽気な気持ちになれる。
花をテーマに描いた『FLORA(フローラ)』というシリーズは、見る人に美を感じさせ、喜びをもたらしてくれる、永遠に枯れることがないブーケみたいな位置づけの作品群よ。そこには尽きることのない自然との対話があるの。
FLORA, UNDAH THE SEA MO.1 © 2021 Taylor Binda
アロハ:
あなたの絵にはいつも色が溢れていて、しかも力強いエネルギーが感じられる、その理由がわかった気がするよ。
話が少し変わるけれど、草間彌生(ヤヨイ・クサマ)の大ファンなんだよね?
テイラー:
初めて目にして以来、ヤヨイのアートには魅了されっぱなしよ。彼女の挑戦はエクストリームだけど、作品とスタイル、とりわけストーリーの両方によって大成功を収めているわよね。
その色遣い、パターン(図案)、エモーション、物語り、ブランドとのコラボレーション、インスタレーション、彫刻作品、パフォーマンスアートなどすべてがわたしに巨大なインスピレーションを与えてくれる。ヤヨイ・クサマはわたしにとってそんな存在よ。
先祖代々のレガシーを受け継ぐテキスタイル作品
テイラーのオリジナルテキスタイルブランド『WILD FLORA』のアイテム、
sweet dreams slip
アロハ:
絵画以外に、テキスタイルの作品も発表しているけど、あなたのテキスタイルアートについて紹介をお願いできる?
テイラー:
わたしはテキスタイル作家の家に生まれたの。‐彼らの中に自分たちのことを「テキスタイル作家」とは呼ぶ人は誰一人いないけどね。
わたしの母方の一族はアイルランド系の伝統が色濃く、(特に新しい子供の誕生や結婚などの特別な機会に)ニットやかぎ針編みを制作する習慣が古くからあるのね。
そんなわたしのテキスタイル作品は、自分のアイルランドそしてイタリア系の先祖から受け継いだもの(先祖たちが暮らし、植物、農業、魔術などを駆使して働いていた土地と深い関係があるもの)へのオマージュなのよ。
なぜわたしが自分のテキスタイルのブランドを『WILD FLORA(ワイルド・フローラ)』と名付けたのか考えてみると、「フローラ」とはローマ時代の花や植物、また豊かな実りの女神だし、「ワイルド」は、わたしのアイルランドあるいはケルト系の血縁から来ていると思う。
そんな自分のケルトの血筋や、ケルト民族の歴史と伝統を誇りに感じて、『WILD FLORA』の作品は、季節ごとに設けられたケルトのさまざまな祝祭日の期間に制作するようにしているの。
アロハ:
『WILD FLORA』では花から取った染料を使っているんだよね?
テイラー:
そう。古くからのサステナブルな天然染めの技術で抽出した花の色素を使っているわ。
その色素でヴィンテージや現代の服を染めてリメイクしたり、(結婚式で使われた)ウェディングフラワーや(誕生日に贈られた)バースデイフラワーから抽出した色素を使った記念品をオーダーメイドしているの。
最近ではテキスタイルに使うのと同じ花の色素(顔料)を絵画にも使うようになりつつあって、染色した生地を広げて伸ばし、キャンバスのように使うこともある。
テキスタイル作品は、わたしの作品制作におけるより柔軟な一面だと感じるし、その可能性は無限大よ。労力も手間もかかるけれど、技術を探求し、作品のスケールを大きく広げていくことは心から楽しいと思えるわ。
そして、今ではさらにテキスタイルそのものが絵を描くプロセスの一部になりつつあるの。例えばアクリル画に刺繍糸を使って「マークメイキング(例えば線などを描くこと)」をするなど、テキスタイルを使った絵画制作にも夢中で取り組んでいるわ。
刺繍糸によるマークメイキングを取り入れて制作された絵画作品
NEON QUILT, NO.2 © 2022 Taylor Binda
アロハ:
それって、あなたならではの、あなたにしかクリエイトできない絵画だよね。
テイラー:
制作中は瞑想しているみたいな感じ。繕い物の技法を視覚的に絵画に取り入れることで、ほつれや穴を縫い合わせたり、継ぎ布をあてて修復するとどんな風に見えるのか、そんな面白味が見る人に伝わったら嬉しいわ。
ヨーロッパの高級メゾンもテイラーの作品に注目
アロハ:
ありがとう。最後に、最新のプロジェクトや今後のプロジェクトについて教えてもらっていい?
テイラー:
一番最近のプロジェクトは本当にエキサイティングで夢のようだった。フランスのファッションブランド『ルイ・ヴィトン』がマウイ島南部のワイアレアに新しく改装オープンしたブティックのために作品を購入してくれたのよ!
ルイ・ヴィトンのブティックの壁を飾るテイラーの作品
この他にも進行中のプロジェクトが幾つかあって、ひとつは、偶然わたしと同じボストン出身で、同じくマウイ島で制作をしているアーティストとのコラボレーション展の企画。長い間ずっと共同制作をしたいと夢見てきたんだけど、同じ糸を使って別々のスタイルのテキスタイルを織り上げたり、幾つか共作をするのがとても楽しみよ。
そしてもうひとつ、これはまだ話せないんだれど、別の大きな夢が実現するのもとても楽しみにしているところ。
アロハ:
それは僕もすごく楽しみだな。今日は面白い話を色々とありがとう。
テイラー:
こちらこそ。
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マウイ島・ノースショアにある、眠るようにのどかな田舎町の活発なコミュニティ。ひとけのない森の中で生み出される、鮮やかな色彩にあふれた作品の数々。そんな穏やかな環境でのもとでの丁寧な「観察」の作業が、モチーフの秘めたパワーを引き出し、テイラーならではのエネルギッシュなアートとして実を結びます。
「静(せい)」があるからこそ「動(どう)」は生み出され、存在可能となる。「静」と「動」は相反するものでなく、共存関係にあるのかもしれない。そんなことを感じたインタビュ―でした。
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